僕達の願い 第30話


「私と話したいだと?女連れでナンパとは・・・まあいい。ならばそこのピザ専門店に入るぞ。もちろん奢ってくれるんだろう?」

新緑の髪の美しい少女は不敵な笑みを浮かべ、そう強請った。

「スーパーで買ってくるから冷凍ピザで我慢して」

だが、こちらは学生。いくらバイトをしていると言ってもお金には限りがあるうえに、扇たちのせいで休む日もあるのだ。専門店のピザなど買うわけにはいかないし、冷凍ピザなら1/10以下の価格で済む。
だから井上はあっさりとC.C.の要望を切って捨て、別の条件を提示した。

「お前・・・交渉するならそれなりの対価は必要じゃないのか?」

若干呆れながらソフトクリームを口にするC.C.に、それは解っているんだけどね、と井上は疲れたような顔をして首を傾げた。

「学生のお財布事情を理解してほしいんだけど?」
「・・・まあいい。ではせめて、あのパン家のピザパンを買ってこい。冷凍など貰っても今食べられないだろう」

私はそこの公園で待っていてやるよ。
ソフトクリームのコーンを齧りながら、C.C.はそう言うと公園の中に入っていった。
ピザパン1個というのはやはり安すぎるし、どうせ扇たちの食料も買うのだからと、二人は買い物袋いっぱいのパンを買って公園へ向かった。公園の中で待っていたC.C.は入口に入ってきた二人を見つけると、すぐに移動を始めた。まるで他人のようなそぶりで奥へ奥へと移動する。ここは自然公園なので、思った以上に広い。人通りはそれなりにあるのだが、彼女は人気のない場所へと向かって行った。やがて公園の奥へたどり着くと、芝生の中へ足を踏み入れ、周りからは見えない木陰にその姿を隠した。井上と吉田もそれに倣うよう周りを確認した後木陰へ移動した。

「・・・流石の私もそんなに食べないぞ?」

買い物袋いっぱいにパンが入っている事にC.C.は眉を寄せながら手を差し出してきたのでピザパンを彼女に手渡した。焼き立てを選んだためまだ温かい。

「扇たちの分もあるんだ。あいつら金は払わないけど買って来いって言うからな」

ピザパンは3個買ってきたからそれで許してくれ。

「ああ、あいつ首相になって2年ほどで金銭感覚おかしくなったからな。10人ほどの客を連れて玉城の店で散々飲み食いしておきながら、一銭も払わなかったそうだぞ?たしかそれがきっかけで疎遠になったんじゃなかったか?」

俺が来ただけで宣伝効果があるんだから奢れとか言ったらしいな。
その上高い酒ばかり飲んでいったとか。
ピザパンをパクリと口にしながらC.C.はさも当たり前のように未来の記憶を口にした。

「貴女も覚えているの!?」
「未来の、2028年までの記憶か!?」
「解ってて扇の名前を口にしたんじゃなかったのか?・・ああ、お前たちはブラックリベリオンで殉死したんだったな。で?私に何が聞きたいんだ?」

余計な話をするつもりはないと言いたげに、C.C.は溶けたチーズを美味しそうに口にしながら二人を伺った。ゼロと共にいたC.C.にとっては扇側にいる自分たちは敵だろう。だから質問の内容によっては何も答えずにここを去るに違いない。ならば一番知りたい事を聞くべきだと井上は口を開いた。

「玉城の居場所を知ってる?」
「知っていたとして、聞いてどうする?」
「連絡を取りたいのよ」
「玉城に連絡を取る意思があればあちらから取るだろう?」

取る意思がないから居場所が解らないんだ。
その言葉に、その通りだと思いながらも、あちらから連絡が来るのを待つ事はしたくはないと口を開く。

「まあ、そうだけど・・・話を聞きたいのよ」
「話?」

今更何の話だと言いたげに、C.C.は眉を寄せた。

「扇達の話だとイマイチ良く解らないから、玉城からも話をな」

吉田の言葉に、C.C.は不思議そうに首を傾げた。

「良く解らないだと?」
「何でもかんでもルルーシュが悪い、ルルーシュのせいだ、ギアスって力で操ったんだって、馬鹿の一つ覚えみたいに連呼するからな。玉城はそうじゃなかったから、玉城からちゃんと話を聞きたいんだ」
「成程な、首相となった後の自分の失態さえ全部ルルーシュのせいにする男だ。まあ、想像はつく」

本当に無能だな。
ピザパンをぺろりと完食したC.C.はハンカチで手についた油をふき取ると、懐から携帯電話を取り出し、何処かに掛けた。
数コール後に出た相手に、煩いな、私だってお前になど掛けたくはないんだと口汚く言ってから、視線をこちらに向けた。

「お前の古い友人が連絡を取りたいと煩いんだ。話をしてやれ」

渡された電話の向こうから聞こえたのは、間違いなく玉城の声だった。

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